第十一章 有の以て利を為すは、無を以て用を為せばなり。

原文

三十輻共一轂。當其無、有車之用。
挺埴以爲器。當其無、有器之用。
鑿戸牖以爲室。當其無、有室之用。
故有之以爲利、無之以爲用。

訓み下し文

三十(さんじゅう)(ふく)(ひと)つの(こしき)(とも)にす。()()(あた)って、(くるま)(よう)()り。
(つち)(こね)(もっ)(うつわ)(つく)る。()()(あた)って、(うつわ)(よう)()り。
戸牖(こゆう)(うが)ちて(へや)(つく)る。()()(あた)って(へや)(よう)()り。
(ゆえ)(ゆう)(もっ)()()すは、()(もっ)(よう)()せばなり。

解釈

三十本のスポークがホイールと一つになる。そのホイールに空洞があって車軸を通せるから、タイヤとして機能する。
粘土をこねて器を作るときは、へこませて空間を作るから器として機能する。
戸を打ちつけて壁をつくるから、空間ができて部屋として使える。

だから、有用で利益が出るものは、役に立たないところがあってこそ生まれる。

備考

無駄があることで意味を成す話は老子に多い。
第四十五章には完成品は欠陥があるように見えるなどとある。

物作りをする人にとっては考え甲斐のある章ではないか。

鑿戸牖以爲室
戸や窓を作るためにノミで削るのは日本人の常識ではおかしい。中国人の表現には違和感あることも少なくないから、これもその一つと言えなくもないが、意外と土壁だったのかもしれないね。

テーマ

逆転の発想

ヒント


(フク|や)

自転車の車輪にあるようなスポーク。

(こしき)

車輪の部品で車軸を通すための穴の開いた輪。
車輪は、この轂と外輪をでつなぐことで完成する。もちろん、轂に穴があいてなければ車軸を通せないから車輪として用をなさない。

(あ-たる)

当の旧字。

(テイ)

延ばすですかね。

(つち)

粘土。

(のみ)

木や石を削るための大工道具。
ノミで削って穴を開けること。

(まど)

窓のこと。

熟語(0種/0回)

ルビ無版下し文(コピペ用)

三十の輻、一つの轂を共にす。其の無に当って、車の用有り。
埴を挺て以て器を為る。其の無に当って、器の用有り。
戸牖を鑿ちて室を為る。其の無に当って室の用有り。
故に有の以て利を為すは、無を以て用を為せばなり。