y o m u : n e l

ヨムヨムエブリデイ

246:3AM

yomunel2011-06-14

おとといの深夜、夜の当番を終え、激しく降る雨のなか車を運転して帰った。ワイパーをハイスピードにしても雨に追いつかず、前を行く車のテールランプや対向車のヘッドライトや信号の赤や青がみるみるフロントガラスに滲んでは流れてゆく。カーステレオの音楽も雨音に掻き消されて聞こえない。仕事でむしゃくしゃすることがあり、もうどうにでもなれと、アクセルをめいっぱい踏み込んだ。
これが映画なんかだと、自暴自棄になった主人公が車のスピードをあげ、点滅する踏み切りに気付き、急ブレーキ、派手にスリップ、エンスト。ハンドルに突っ伏した主人公が笑いながら泣くという流れになるのだけど、現実はそれほどドラマチックではなくて、何事も起こらずあっさり家に着いてしまった。
濡れた服を脱いで、風呂で温まり、乾いた部屋着に袖を通す瞬間は雨の日の小確幸だなぁと思う。ベッドにもぐりこみ、ふと、百年文庫の「雨」の巻にはどんな短篇が収録されてたっけと思い立ち、パンフレットをめくってみる。でも100巻のなかに「雨」はなかった。「雪」「風」「雲」「水」などはあるのに「雨」はない。じゃあマイ「雨」を選んでみよう。モームの「雨」はベタすぎるかな。テキトーに次の3つが浮かぶ。

  1. 村上春樹「土の中の彼女の小さな犬」
  2. レイ・ブラッドベリ「長雨」
  3. ヘミングウェイ「雨のなかの猫」

1.は《窓の外では雨が降っていた。雨はもう三日も降りつづいていた。単調で無個性で我慢強い雨だった。》が出だし。
2.は中学生のころ『刺青の男』(ハヤカワ文庫)で読んでから忘れられない一篇。
3.は10代のころヘミングウェイの短篇集で読んで大好きになったのだが、大人になって読み返してみて、こんなかったりー感じの夫婦の話のどこを10代の自分が気に入ったのか、そっちの方が謎。
まだ激しく降っている雨の音を聞きながら、雨の短篇のことをあれこれ考えているうちに眠ってしまった。次の日の昼過ぎに目を覚ますと雨はすっかりあがっていた。