人類と核兵器は共存できない 青年を先頭に民衆の力の結集を

2012年5月9日(水)更新:2
SGI会長が英字紙「ジャパンタイムズに寄稿 2015年へ「核兵器禁止条約」の推進を】
 イランの核開発問題や、北朝鮮による長距離ロケットの発射など、中東や北東アジアで地域的な緊張が高まる中、2015年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議に向けた準備委員会が、4月30日からウィーンで開かれる〈5月11日まで〉。
 NPT発効から40年以上の歳月を経てもなお、やむことのない核兵器の拡散――。こうした現実を見るにつけ、NPT全文で謳われた「貯蔵されたすべての核兵器を廃棄し、並びに諸国の軍備から核兵器及びその運搬手段を除去する」とのビジョンに立ち返る以外、根本的には解決の道は開けないと思われる。
 核兵器が存在する限り、他国を強大な軍事力で威嚇しようとする衝動が生き続け、それが多くの国々に不安や恐怖をもたらす。そして、その不安や恐怖が呼び水になって、新たな核拡散の脅威が広がり、世界をどれだけ不安定にさせてきたか計り知れない。こうした負のスパイラル(連鎖)は、核兵器に安全保障を依存する思考からすべての国が脱却しない限り、完全に断ち切ることはできないものなのだ。
 かつてハンス・ブリクス氏らの大量破壊兵器委員会は、「ある国々の手にある核兵器は脅威ではないが、他の国々の手にある核兵器は世界を破滅の危機に陥れる、というような考え方を認めない」との見解を示した。全く同感であり、核兵器というダモクレスの剣はどの国が保有しようと、人類の生存権を脅かす“絶対悪”であることには変わりなく、一律に禁止することが焦眉(しょうび)の課題といえよう。
 国際社会がその課題に踏み出す上で、2010年のNPT再検討会議の最終文書は重要な礎となるものである。そこでは、「核兵器のいかなる使用も壊滅的な人道的結果をもたらすことに深い懸念を表明し、すべての加盟国がいかなる時も、国際人道法を含め、適用可能な国際法を遵守する必要性を再認識する」との一文が盛り込まれ、国際法の遵守において一切の例外を認めない旨が明記された。
 今こそ、この合意を突破口に、「核兵器の非合法化」を明確な条約の形に昇華させるための挑戦を本格的に開始しなければならない。ウィーンの準備委員会では、2010年の最終文書を踏まえ「核兵器に対する国際法の適用」を議題の一つに乗せ、核兵器を包括的に禁止する「核兵器禁止条約」(NWC)を視野に入れた討議に着手すべきであると、強く訴えたい。
 NWCの制定を求める声は、今や、162ヵ国が加盟する「列国議会同盟」や、5200以上の都市が加盟する「平和市長会議」をはじめ、各国の首相・大統領経験者による「インターアクション・カウンシル(OBサミット)」からも表明されるまでになってきた。また、マレーシアなどを中心にNWCの制定を求める決議が1996年以降、国連総会に毎年提出される中、昨年には130ヵ国が賛成するまで支持が広がっている。
 NWCの実現に向けて、カスケード(雪崩的な拡大)現象を巻き起こすためには、もうひと押しの努力が必要だ。私はそのために、従来の国際人道法の精神に加えて、「人権」と「持続可能性」を、グローバルな民衆の意志を結集するための旗印に掲げ、青年たちを先頭に「核兵器のない世界」を求める声を力強く糾合することを呼びかけたい。「人権」と「持続可能性」の観点に立てば、核兵器に基づく安全保障政策が維持されることで、同じ地球で暮らす多くの人々や将来世代にもたらされる被害と負荷の問題が浮き彫りになり、関心を高めることができると考えるからだ。
 NWCの交渉開始という難関を突破する一つの方途として提案したいのは、基本条約と議定書をセットにする形で核兵器の禁止と廃絶を追求するアプローチである。つまり「『核兵器のない世界』の建設は人類共同の事業であり、国際人道法と人権と持続可能性の精神に照らして、その建設に逆行する行為や、理念を損なう行為をしない」との合意を基本条約の柱とするものだ。その眼目は、すべての国が安心と安全を確保できるような“人類共同の事業”としての枠組みを打ち立てることにある。
 そうした“脅威から安心への構造転換”を基本設計とする条約が成立すれば、次の段階となる議定書の発効が多少遅れたとしても、現在のような先行き不透明で脅威が野放図に拡散していく世界ではなく、明確な全体像に基づいた国際法によるモラトリアム(自発的停止)の状態が形成されていくのではないか。そのための準備を早急に開始することが必要であり、有志国とNGO(非政府組織)が中心となって「核兵器禁止条約のための行動グループ」(仮称)を発足させることを呼びかけたい。
 かねてより私は、原爆投下から70年にあたる2015年に、各国の首脳や市民社会の代表が参加して、核時代に終止符を打つ意義を込めた「核廃絶サミット」を広島と長崎で行うことを提案してきた。また、その一つの方式として、NPT再検討会議の広島・長崎での開催も呼びかけてきた。
 被爆地での開催を念願してきたのは、会議の参加者が訪問を通じて「核兵器のない世界」への誓いを新たにすることが、核問題解決の取り組みを“不可逆で揺るぎないもの”にしていくと信じるからだ。その会議で、NWCの基本条約の調印か、最終草案の発表が行えるよう努力していくべきだ。SGIとしても、平和市長会議や核兵器廃絶国際キャンペーンICAN)をはじめ、志を共にする諸団体と連帯し、そのための国際的な機運を高めていく所存である。
 「核兵器による悲劇は二度と繰り返されてはならない」「人類と核兵器は共存できない」――それこそが、広島と長崎への原爆投下から得た教訓だったはずだ。その教訓を明確に核兵器を禁止する条約の形に結実させるために、日本が、ウィーンでの準備委員会において建設的な議論をリードし、2015年のNPT再検討会議に向けて「核兵器のない世界」への潮流を形づくる役割を発揮することを切に願うものである。 (聖教新聞 2012-05-09)