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[BOOK]羽生さんを好きになった一冊『羽生さんはコンピュータに勝てますか?』川上量生
羽生善治×川上量生「羽生さんはコンピュータに勝てますか?」完全版 【文春e-Books】
- 作者: 羽生善治,川上量生
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2015/09/11
- メディア: Kindle版
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まず、川上氏。「21世紀は人間とAIとの戦争の時代だ」「コンピュータが人間の仕事を奪う」というような漠然とした不安に対して、切れ味よい見解。
AIと言えば、ロジックですよね。人間の脳以外のロジックを、人間がコントロールできなくなるというのが、戦争のイメージであるならば、現時点でも資本主義やキリスト教といった人間の外にあるロジックをコントロールできていない。
人工知能が「人間のコントロールできないもの」を生み出すのではないと思う。人工知能がもたらすものは、ある社会構造や、金融のシステムなど、人間がコントロールできないシステムの進化の速度を上げることだと思う。
コンピュータの思考について、羽生氏の例えが非常に面白い。
コンピュータ将棋が発達すると、「棒銀はダメ」「穴熊は終わり」とかある戦法が丸ごと否定されるようになり、将棋の世界が狭くなっていくのでは?と言われることがあるが、むしろコンピュータによって、広くなっていくと思う。結局、人間が考えるアイデアは、どうしても似てくる。コンピュータは、全然違う角度から、「こういう手もありますよ」と提示してくるところがある。これは、人間の思考の死角をより明確に提示することだと思う。死角なのですから、そもそも、そこが死角であることすら気づいていないわけですが、それを具体的に提示されると、「あ、ここが死角だったのか」「これは盲点だった」と発見があるはずです。ただ、同時に難しさもあります。ピッチングマシーンで200キロを見た人が、その速さを目指したら、絶対肩を壊してしまうわけです。つねに制約のある世界で生きている人間に対して、「思考の世界では幅広く柔軟に、死角が生じないように」ということを求めるのは、ちょっとした矛盾があるように思える。
最後のほうで、すべてが満たされる世界では、誰もが死にたくなる。その中で死にたくないと思うのは、知的好奇心が旺盛な人だけだという話が出てくる。僕は、その話はたとえ話ではないと思った。数十年後〜数百年後、ロボットが全て働いてくれるようになり、食うために働く必要がなくなるだろう。そのとき、働きたいと思うのは、知的好奇心が高い人だけじゃないだろうか。