厭魅の如き憑くもの

憑き物とかの話が好きな人へ、あるいは、よく「君はなにか持ってるね〜」と言われる人へ

  • ISBN(13桁)/9784062763066
  • 作者/三津田信三
  • 私的分類/ミステリ(金田一耕助風)・憑き物
  • 作中の好きなセリフ/

怖いからこそ襖の隙間から顔を逸らせんようになって、でも何も見えんな思うて、ふと隙間の一番上を見るとな、そこから自分を見下ろしとる目が覗いとって……


厭魅の如き憑くもの (講談社文庫)
三津田 信三
講談社
売り上げランキング: 10571


【私的概略】
 山村で対立する2軒の大地主。村の人たちはどちらの味方かで「白」「黒」と分けて呼ばれています。黒の地主は、いわゆる憑き物筋の家系と呼ばれ、白の地主から忌み嫌われていますが、時代の流れ、憑き物信仰自体をナンセンスなものと捉え、それを無くそうという気風があらわれつつあります。


 白と黒の対立、憑き物信仰に反発する人たちと固執する人たち、それに加えて、村の中を跋扈する物の怪の禍々しい気配と神隠しの伝承。。。
 連続殺人は、何が原因で起きたのか?放浪の怪奇収集作家、刀城言耶が金田一風に解決に乗り出します。




【感想】
 刀城言耶シリーズは、ミステリーとホラーの融合が、その特色。今回もホラーぽい挿話やトリックが、本筋のミステリーを盛り上げます。巫女が払った憑き物を川に流す儀式の際に起こった怪異なんかは「これを合理的解決させるのか。。。大丈夫かな」と思えるほど妖しげな気配。本作もシリーズの持ち味を充分発揮させていて、楽しめました。


 しかし今回は、他の作品と比べてホラー部分がミステリから少し離れ気味、ミステリの本筋に貢献しないホラー部分が大きく、単に怖い雰囲気を盛り上げただけの話の割合が多かったです。
 ただし、ミステリが主でホラーが従だという思いで読むと(ホラー部分は合理的に解決しないので)消化不良になります。どちらも対等で良いと思って読めば、これはこれで「両者の融合」と言えるのかもしれません。


 面白いことは面白いんですよ。トリックの内容とか意外性があって。ただ、「この消化不良な感じはなんだろう」というような物足りない感じが、私の中で、刀城シリーズ群の中でインパクトの薄い作品に位置づけさせているのです。
 私の好みが偏りすぎてて、それに合わないだけなのかな。。。




【私的評価】
電車の中で気軽に読めるか…5/5点
読後に何かが残った感じがするか2/5点(そんなでもない)
繰り返し読めるか…4/5点(再読して作者の工夫を見つけるのも楽しい)
総合…4/5点(3ないし4。トリックは意表をつかれた)

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『アリス・ミラー城』殺人事件

新本格のワンパターンさに疑問を持ち始めてる人へ、あるいは、アガサ・クリスティのあの名作が好きな人へ

  • ISBN(13桁)/9784062761468
  • 作者/北山猛邦
  • 私的分類/ミステリ(本格)・孤島の殺人
  • 作中の好きなセリフ/

ワシのちょっとばかり灰色をした脳細胞が危険信号を発しておる。それはもうやかましいほどにな。


『アリス・ミラー城』殺人事件 (講談社文庫)
北山 猛邦
講談社
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【私的概略】
 秋田県沖の無人島、江利ヶ島。ここには、アリス・ミラー城なる西洋風の城があり、鏡だらけのこの城には、謎の鏡「アリス・ミラー」なる鏡があるといいます。「アリス・ミラー」を探すべく集められた名探偵たち。彼らが一人、また一人、遊戯室に意味深に置かれたチェス駒のように、殺されていきます。


 消えては現れる城内の扉。建築意図の不明なアリス・ミラー城。疑惑に蝕まれる探偵たち。島に降り注ぐ酸性雨と黒い雪が世紀末的な雰囲気をかもし出します。




【感想】
 もちろん、アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』的な世界。
 登場する探偵たちも、西洋の名作に登場した名探偵を思わせる雰囲気の人たち。
 セリフの端々にも古今の名作への思い入れが滲んでいます。
 登場する舞台も、鏡だらけの有り得ない西洋風のお城。
 挙句、探偵小説の十戒じみたものから、素人には理解困難なミステリ芸術論まで出現して、あぁ、この作者は本格ミステリが好きなんだねぇ、と思いました。


 しかし、しかしです。ストーリーの最後でトリックが明かされるわけですが、そのトリックが、、、どうにも解せぬ。動機も、あまりに現実感が無くて全く理解ができぬ。


 動機に現実感が無いのは、ストーリー全体に、まるで空想世界の出来事のような美しさをも漂わせて、これはこれでありかもしれません。おそらく、この本の作者は古今のミステリを読み込み、それらの名作を乗り越えて新しいミステリを作ろうとしているのでしょう。この動機は、その産みの苦しみだと思えば、人によっては強く賛同するかもしれません。
 しかし、トリックが意外すぎて、私には納得できなかった。意外すぎる、ということについては、読み終わった後すぐに再読して自分の読み落としを確かめようとしたくらいです。




【私的評価】
電車の中で気軽に読めるか…5/5点
読後に何かが残った感じがするか…3/5点(大きな疑問と軽い混乱が)
繰り返し読めるか…4/5点(結論を聞いて2回目をすぐに読み直しました)
総合…3/5点(評価が大きく割れるのでは)

『アリス・ミラー城』殺人事件 (講談社文庫)(←同作品を扱う他ブログへ)