デザインとは見た目を考えることではない

結果、美を追求したいというデザイナーや尖った商品企画担当者の欲求は叶わず、デザイン妥協してコストを下げるだとか、デザイン妥協して視認性上げるだとか、デザイン妥協して耐久性上げるだとかの話になってくるわけだ。

日本の家電メーカーが出す商品はなぜ”もっさい”のか - キャズムを超えろ!

「デザイン妥協してコストを下げる」までならまだ分かります。しかし、「デザイン妥協して視認性上げる」や「デザイン妥協して耐久性上げる」になると何を言っているかさっぱり分かりません。
これはデザインの言葉を誤解しているのが原因だと思われます。スーパー大辞林3.0 (iPhone版)によると次のように書かれています。

デザイン【design】
作ろうとするものの形態について、機能や生産工程などを考えて構想すること。意匠。設計。図案。

だいたい、見た目と使い勝手を二律背反のように考えることがおかしいと思うわけです。道具の美しさや格好良さを追求したからといって、使いづらくなったり性能が落ちるはずがありません。


古来、刀は武器として作られましたが、日本刀は刀としての性能を追及する過程で美術的価値も得ることになりました。

日本刀は諸外国の刀剣類と異なり、外装品(拵え)とは別に刀身自体が美術的価値を発揮していることを以って最大の特徴である、と言える。

日本刀 - Wikipedia


※ソース:ファイル:Tachi-p1000620.jpg - Wikipedia


また、別の例として私は楽器にも「美しさ」を感じます。

※ソース:ファイル:Violin VL100.jpg - Wikipedia


冒頭の写真は以前に東京ハンズで買ってきた砂時計(3分)です。カップ麺を作る時にも使えますし、紅茶をいれる時にも重宝しています。で、言いたいことは、私はこの砂時計の見た目を「美しい」と感じると言うことです。見て直感的に「砂時計」であることが分かりますし、仮に砂時計を知らなくても少し触ればそれが時間を計るために使えることが分かります。「ルックアンドフィール」の典型です。砂鉄の落ちる様子がよく分かり、上下を逆にしてもその使い勝手は変わらず、何度でも繰り返し使えるように見た目、形が作られてます。


製品や商品は道具です。道具は何かの目的を実現するために使われます。そして、使われる上で最適な見た目、形を決めるのがデザインです。使い方が分からないような見た目や、使いづらい形状は、どんなに華美に見えようと道具として間違っています。また、道具が美しく見えないのであれば、それは十分に考えられていないということだと思います。必要な機能と使い勝手を見極めて無駄を省いていったときに、その道具にとってのあるべき姿が現れてきます。いわゆる「機能美」です。
コンセプトモデルとは機能性のないアイデア、思いつきにすぎません。いったい何のためにそんなものを作り、発表するのか理解できません。アップルはコンセプトモデルに意味はないと言い、コンセプトモデルを作っていません。

「real artists ship」は字義どおりいえば「真のアーティストは作品を出荷する」だが、Jobs のいう意味は「アイデア止まりではダメで、実際に製品となって初めて価値がある」ということだろう。「作品は存在して初めてアートになる」、「世に出すのが大事」と言い換えてもいい。

結局アップル(Steve Jobs)にとって意味があるのは、コンセプトモデルではなく実際の製品ということだ。

アップルはなぜコンセプトモデルを造らないか | maclalala2


今の道具は豊富な機能があり、いろいろなことができますが、逆に操作が複雑になり分かりづらくなってもいます。テレビやビデオ、携帯電話についてくる分厚いマニュアルを読んだ人はどのくらいいるのでしょうか。これらの複雑な製品の開発には企画担当、デザイナー、ハードウェア開発者、ソフトウェア開発者など多くの人たちの力が必要です。そして、日本の企業の社員の能力がけっして低いとは思えません。しかし、結果として日本の製品が「もっさい」製品になり、アップルが洗練された製品になるのは、アップルが純粋に「自分たちが心からほしいと思えるような製品を、妥協のない意思疎通で開発した」からだと思います。


備考

日本刀の写真はWikipediaから引用しています。ただ、引用のためのルールが十分理解できなかったので、正しいルールになっていない場合には指摘いただけるとありがたいです。

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