日本のメディアは原発事故を故意に過小評価している?


Zeit Online, 26.3.2011 - 09:43 Uhr
ツァイト・オンライン 2011年3月26日 9:43
http://www.zeit.de/gesellschaft/zeitgeschehen/2011-03/japan-atomkrise-medien

東京に暮らす人々は、まともな情報が自分たちに届いておらず、メディアや国の情報機関は状況分析を避けているのではないか、と感じている。

東京の繁華街――1000万人あまりが暮らすこの大都市では、まだ多くの人が、いつもどおりの日常生活を続けている。実際には、福島の上空にどれだけの煙があがっているのか? 煙にはどの程度の放射線が含まれているのか? 事故のあった原発にいる作業員たちの状況はどの程度まで深刻なのか? こうした問いへの答えは、今のところまず日本のメディアから世界に伝えられている。だが、日本のメディアは信頼できるのか? 原発事故を客観的に伝えているのだろうか?

国営[訳注:原文のまま]テレビ局であるNHKと、日本の独立通信社である共同通信は、いずれも大きな組織であり、ニュース供給を先導する役割をになっているが、福島についても一番多くの情報を提供している。「NHK共同通信の情報はそれなりに役立ちますよ。綿密に調べてあるし、英語版サイトにもかなり詳しく訳されています。ただ、分析は自分でやらないといけない」と、パリのエネルギー問題専門家マイケル・シュナイダー[Mycle Schneider]氏は述べる。

NHK共同通信は、[分析抜きの]ニュースの形でしか報道しないことが多い。新しく計測された放射能の数値をくりかえし報じ、政府による基準値との比較はおこなうが、その数値の意味づけや評価は先送りする。そのかわり、日本のテレビを観ていると、専門家なる人たちが意見を求められる。この人たちのほとんどは大学教授で、カメラの前で明確な回答を避ける術を心得ているらしい。特に、福島の周辺から東京に至る地域では、多くの市民がこのことに苛立ちを示している。「政府が自分のもっている情報を出さないのは、政府なりの理由があるかもしれません。でも、メディアは公共のものでしょう」と、東京の服飾企業のオーナー、エノモト・ヨシアキ氏は述べる。

エノモト氏が苛立っているのは、福島の事故以来、NHKを観たり、日本の四大紙を読んだりすると、ジャーナリストたちが状況について自分の判断を避けようとしているのが感じられる点だ。「大きなパニックをみんなが恐れているという感じがします。だから、誰も本当のことを言わないんです」とエノモト氏は言う。

福島に関する国内の報道の自由は、すでに先週の金曜日[訳注:3月18日]にその限界を示していた。大手の朝日新聞社が出している週刊誌AERAは、「放射能がくる」というタイトルで発売された[訳注:発売日は3月19日]。東京に住む人々の目から見れば、たしかに間違っていない謳い文句だ。現に、東京では今日[3月26日]も水道水の放射能汚染に悩まされている。だが、このAERAのタイトルは、日本のメディアの自己理解からすると、あまりにパニックを煽っていると思われた。各方面から批判が殺到し、結局、AERA編集部は公的に謝罪する羽目になった。

この点で、日本のメディアは、原発事故後の東京を覆っている重苦しい静寂を映し出している。いまだに公共の場で騒動が起こる兆しはまったくない。事故が発生してから毎日、発電所を経営する東京電力の東京本社前でデモに参加しているのは、ごく少数の原発反対運動家だけだ。だが、それに応じて、東京に住む誰もが感じている不安が公共の場で露わになる機会もほとんどない。情報に通じている人々の多くは、国外のメディアやウェブサイトを参照している。東京では、シュピーゲル誌オンライン版ないしウィーンの気象学・地球力学中央研究所(ZAMG)による、放射性物質が福島から飛散していく様子のシミュレーションが特に注目を集めている。
[訳注: http://www.spiegel.de/panorama/0,1518,bild-192707-751072,00.html (データはZAMGによるもの)]

オーストリアの専門家たち[ZAMG]は、福島における放射能排出量を、チェルノブイリと対比して、ヨウ素 131については10〜20%、セシウム 137については、20〜60%と見ている。これまで日本のメディアでこのような推定値が公表されたことはない。気象庁は、測定装置が震災で損傷した、と弁解している。このため、公的なインターネット情報サービスである「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム」(SPEEDI)も長いこと停止していた。本来、SPEEDIは、原子力安全関係機関が放射能災害に際して市民に情報を提供するためのサービスだった。だが、SPEEDIが測定値を初めて公表したのは、今週の水曜日[3月23日]になってからだった。ウィーンの気象学者たちのほうが早かったというのは、あまりいい兆候ではない。

日本のメディアや情報機関がここまで慎重になってくると、福島の事故の重大さをこうしたメディアや情報機関がまともに判断できるのだろうか、と海外のメディアは自問せざるをえない。こうしたジレンマを心得ているといわんばかりに、ニューヨーク・タイムズ紙は、退職したアメリカの原子力技術者の発言を引用した。この技術者は、福島の原子炉内に[注入された海水によって]塩が蓄積している危険について警告している。こうした警告も、本来なら、日本から発せられてしかるべきだったろう。

[訳注: http://www.nytimes.com/2011/03/24/world/asia/24nuclear.html


ゲオルク・ブルーメ Georg Blume
(trad. SS)