つい先日のことである。 上野恩賜公園の、下町風俗資料館を訪れた。 どんな施設か問われれば、返答(こた)えるに格好の例がある。私が平素愛読している数多の古書。ヤケ・シミ激しいこれらの本が、未だ刊行されて間もない時分――頬ずりしたくなるほどに綺麗な紙面をしていた頃の東都の生活景色を再現・保存したものだ、と。 場所はいい。 不忍池のほとりに位置する。 まず景勝の地と呼んで差し支えはないだろう。 蓮は順調に立ち枯れて、これはこれで味わいのある、寂びた情緒を漂わせていた。 風に吹かれてカラカラと、乾いた音が鳴っている。 三百円払って中に入った。 井戸に据え付けられた手押しポンプ。 これとそっくりな物体を…