恐らく彼は或る程度のところまで来ている。或る階梯の或るところまで。それ故に彼は言うのだ。彼は自分のいずれ辿り着く場所をぼんやりと意識し始めていた。彼は言う。 「確かに金は必要なものではあるでしょう。でも世の中には、金に眼の色変える輩というのがごまんといるんです。それが分からない。いや、分かるけど、おれには彼らの気持ちが本当に解ったためしがない。たぶんかつて一度もないのでしょう。金儲けのために躍起になる人々、或る人はそのために道を踏み外しさえする。彼はそれで何を得るのか? 彼がものの価値を知っている人間とは到底思われません。そうでしょう? おれの彼らを理解しようという試みは大昔に失敗に終わりまし…