第二章 主題 一 初期芥川作品におけるテーマ 古くから言われているエゴイズム論について考えてみよう。エゴイズムの定義であるが、「自分の利益だけを考え、他人のことを省みないこと。自己本位。わがまま。利己主義」(日本国語大辞典・小学館)である。それから言えば、下人の行動はエゴイズムの発露と言えよう。先行する『金色夜叉』『舞姫』『こころ』はエゴイズムの生む不幸を描いている。多くは他者から指摘を受け、または、指摘を受けるのではないかと、自分のエゴイズムを恥じるというのが、普通である。それを、人の話で自らのエゴイズムを肯定するというのは、へそ曲がりの芥川らしいと言えなくもないが、そのようなエゴイズムの肯…