古事記と日本書紀は、しばしば「記紀」として一括りにされがちだが、その内容は必ずしも一致しない。古事記に数多く登場する出雲神話が、日本書紀にはほとんど見当たらないのだ。本書は、古事記と日本書紀は「別物」だとし、スサノヲやオホナムジ(オオクニヌシ)をめぐる出雲神話について論じている。また、松江市に鎮座する神魂神社に注目した論考も面白い。 神魂神社に祀られる神は、一般にはイザナミとして知られているが、著者はカムムスヒ(神産巣日神)が祀られているのではないかと推察する。この神は天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)や高御産巣日神(たかみむすひのかみ)と共に古事記の序盤で登場し、宇宙の創造に関与する造化…