吉田栄三・文楽人形遣い 昭和十七年朝日文化賞受賞 数年前、文楽を見に行く機会があった。 そして「風貌」の吉田栄三氏のことを思い出した。 蹴られた足の脛は痛かっただろうなと思って心が痛かった。 ***** 文楽座の立役遣い(たてやくづかい)の名人初代吉田栄三は、小兵(こひょう)な爺さんだった。 「私はご覧の通り、ちんぴらで、非力(ひりき)だっさかい」と口癖のように言っていた。 栄三の舞台を観た人なら、誰でも印象に残っているだろうが、栄三は、いつも口をへの字に結んで、上手(かみて)の天井(てんじょう)の一角をグイと睨んでいた。その上、こめかみには憎らしい青筋が二又立っていたものだ。 …… 小兵で非…