今日も町には隙間《すきま》なく車が出ていた。 馬場殿あたりで祭りの行列を見ようとするのであったが、 都合のよい場所がない。 「大官連がこの辺にはたくさん来ていて面倒な所だ」 源氏は言って、 車をやるのでなく、停《と》めるのでもなく、 躊躇《ちゅうちょ》している時に、 よい女車で人がいっぱいに乗りこぼれたのから、 扇を出して源氏の供を呼ぶ者があった。 「ここへおいでになりませんか。 こちらの場所をお譲りしてもよろしいのですよ」 という挨拶である。 どこの風流女のすることであろうと思いながら、 そこは実際よい場所でもあったから、 その車に並べて源氏は車を据《す》えさせた。 「どうしてこんなよい場所…