言語(思考・論理)というのは形式として矛盾なく構築されていると内容まで正しいことになってしまい(つまりそれが「制度」なのだ)、その根拠を辿っていくと、因果律や排中律などアリストテレスやカントが列挙したいくつかの原則に行きあたるのだが、それは人間が人間に対して「世界とはこう記述される」と宣言した約束事にすぎないのではないか。 「最低限これだけは正しいとしておこう。そうしないと我々の思考はいつも際限なく根源からはじめなければならなくなるし、いったん記述した世界像に対して矛盾を生ずる可能性がある」というような約束で、それが私たちを自分というこの個体の中に閉じ込める。 (保坂和志『小説の誕生』 p.3…