その年の夏、 御息所、はかなき心地にわづらひて、 まかでなむとしたまふを、 暇さらに許させたまはず。 年ごろ、常の篤しさになりたまへれば、御目馴れて、 「なほしばしこころみよ」 とのみのたまはするに、 日々に重りたまひて、 ただ五六日のほどにいと弱うなれば、 母君泣く泣く奏して、 まかでさせたてまつりたまふ。 その年の夏のことである。 御息所《みやすどころ》ーー皇子女《おうじじょ》の生母になった更衣は こう呼ばれるのである——はちょっとした病気になって、 実家へさがろうとしたが帝はお許しにならなかった。 どこかからだが悪いということはこの人の常のことになっていたから、 帝はそれほどお驚きになら…