『なめとこ山の熊』という童話は,「またぎ」を職業とし,「なめとこ山」で熊を獲ってはその皮と内臓の胆嚢を売って生計を立てている淵沢小十郎の生き様を描いた物語である。「なめとこ山」とは奇妙な名だが,実在する(岩手県の花巻と雫石の境にある標高860mの峰)。熊(Ursus arctos L.またはその近縁種)の胆嚢を乾燥させたものは「クマノイ」あるいは「熊胆」(局方生薬)ともいい,苦味健胃,利胆,鎮痙剤として使う。この童話には熊と一緒に風景描写として15種程の植物が出てくるが,その多くが薬草である。 例えば,小十郎が谷で光る白いものに対して母熊と子熊が会話しているのを聞く場面があるが,ヒキザクラ,キ…