ゆくはるにわかのうらにておいついたり 貞享5年(1688)の作。『笈の小文』旅にて、吉野、高野山と山路を経て、ようやく3月末に和歌浦に着いた際に詠まれたもの。紀伊山地ですでに春を見送ったと思ったが、大海に開けた和歌浦における暮春の佳景に巡り会った喜びが「追付たり」にうまく表現されている。 和歌浦は、古くから景勝の地であり「若の浦に潮満ち来れば潟をなみ葦辺をさして 鶴(たづ)鳴きわたる」(『万葉集』919)と山部赤人が詠んで以来、歌枕の地として広く知れ渡ることとなる。ちなみに、近くに鎮座する玉津島神社は、住吉大社、柿本神社と並んで「和歌三神」を祀る社として崇敬されている。もっと、和歌浦はかつて「…