主人公はピアノ教師である。三十代、経済的に豊かではなく、どうも恋人との間には問題があるようで、更には親との関係もよくないらしい。主人公は旧友に頼まれた歌手の伴奏の仕事をしぶしぶ引き受けるが、そのためにさんざんな目に遭う。その後友人の家に行き食事をする。そして…… あらすじにしてみれば、「アイスネルワイゼン」はこんな話だ。しかしこの小説の魅力はおそらくは、こうやってあらすじにできない部分にある、と思う。 よくしゃべる小説だ。ここに書かれている会話には、まるで現実に交わされている会話をそのまま録音して文字に起こしたようなリアルさがある。こういう感覚は、なかなか真似のできるようなものではない。主人公…