今回もちょいとした、お古いお噂をひとつ。昆林斎胡内でございます。 いずれの芸術分野におきましても、二十世紀は懐疑の時代、疑いの時代でございました。 画家たちは色や形を疑いましたですな。音楽家たちは音色やリズムや音階や和音を、疑いましたようで。 文学におきましても、今回はお芝居の台詞を例にしておりますが、事情は似ております。人間は木石にはあらず、草木虫魚にはあらず、人間だけが持っております価値観・美意識・道徳観・宗教観そのほか、十九世紀までかけまして営々と積上げてまいりました常識を、改めて吟味にかけるかのように、根柢から疑って見せたのが二十世紀でございました。言葉の機能を疑い、人生の意義を疑いま…