(3月27日・木) 春のよしなしごと 〇罠。もう冬も終わろうかというある日の午後、森の佇まいが見たくて通い慣れた里山に入った。この日はほぼ無風。厚着をした木々たちは風との対話をする必要もないので、大きな目を見開いてよそ者を見下ろした。中には前に立つ木の肩越しに、背伸びをして私を見下ろす者もいた。さて私はどんな言葉で挨拶すればいいのだろう。黙って通り過ぎるわけにはいかなかった。やあ皆さんこんにちはと、思わず人の言葉で語りかけた。すると彼らは一斉に、何らかの言葉を返してきた。シャワーを浴びせるかのように。森は静寂の中でこそ雄弁になるのだろうか。うまく聞き取れなかったが、通行許可を得たように思って私…