いったい何に夢中だったんだろうか。 地味ながら丁寧な仕事に、妙に憧れた時期があった。四十代だったろうか。へそ曲りな逆張り精神とでも申すべきか。血まなこになって古書店を歩いた作家の一人が、柏原兵三だ。 とはいえ江戸期以前の古典籍を漁るわけでもあるまいし、東京神奈川の古書店集中街を歩き回れば、たいていのものは片がつく。神保町、早稲田通り、本郷通り、中央線沿線各駅周辺、大森蒲田界隈、渋谷から駒場・下北沢・経堂方面、伊勢佐木町、桜木町から白楽方面。週一の休日を使ってなんか月かをかければ、おおむね見当がつく。 ネット検索なんぞという時代がやって来るとは、夢にも思わなかった時代だ。 まず神保町にて入手困難…