お盆の連勤中、相方から木村敏の訃報を聞く。知りたくなかった。私にとって木村敏は人生を最も充実させるきっかけをくれた人。 初めて会ったのは『ゲシュタルトクライス』の原書講読の授業だった。客員教授の木村先生の教室には15人位の受講生がいた。主に院生だったが、看護師の社会人学生に潜りの非常勤講師もいた。 翻訳を割り当てられることもあった。辞書を片手に何時間もかけて翻訳をするが、何度読み返してもまるで意味がわからない。ドイツ語の先生に聞いても『ゲシュタルトクライス』は医学書のため、専門用語が多くて難しいと言う。 「criseは来るものですか、行くものですか」。教室に響く私の声。意欲的な生徒が多いはずな…