スクリャービンの「ピアノ・ソナタ第5番」を半年がかりで暗譜した。静大の1~2年次、火曜の午後は大抵籠っていた大学の資料室でホロヴィッツのレコードを聴いて以来、いつか弾きたい憧れの曲だった。ソナタは普通3つか4つの楽章から成るが、これは複数楽章に匹敵する大きさのソナタ形式による単一楽章の曲。 まず出だしに卒倒。短9度のトレモロがぼこぼこ煮えたぎるマグマとなって一気に噴き出す、狂気のパッセージ!極度に激しい、しかし一瞬で終わる冒頭の直後、対照的に優しく甘い属九の転回形がこだまする。それは半音階で「トリスタン」の和音と化し、さらに拍子も調性も曖昧になり、トリップするように提示部へ捻じれ込んでいく。以…