ウィリアム・トマス・ベックフォード(William Thomas Beckford)作。1782年に仏語で執筆され、1786年に上梓された。22,3歳の頃、3日2晩をかけて不眠不休で書き上げたと作者は嘯いている豪語するが、真偽のほどは。 本作はゴシック小説の金字塔と名高い。異常なまでに気位が高く、自己中心主義的なアラビアの教王を主人公とする、千夜一夜物語を彷彿させるロマンチックな空想に満ちた物語。かのステファヌ・マラルメも絶賛。 教王ヴァテックの物語は大空が読まれる高塔の頂きで始まり、地下の魔界深く降りて終る。この両極を隔てて厳粛な或は滑稽な諸場景と不可思議な出来事とが連続する長い期間が横たわ…