あるいはボトラーの先祖と呼べるか。 戦前、すなわち帝国時代の日本に、便所に行くため席を立つのを億劫がったやつが居た。 職場にて、のお話である。 それも尋常一様の職場ではない。 「お役所」だ。 こやつの勤め先たるや、なんとなんとの中央官庁、当時に於いてもエリート中のエリートコースを突っ走った者にのみ辛うじて門戸を解放している、行政機関の枢要の大官の一名(ひとり)なのである。 当然、彼が執務室にて使用(つか)うところの机ときたら、馬鹿馬鹿しいほど高級(たか)くて広い逸品で。 だからこういう情景を成立させる余地もある。 「…官庁のある高官で遠い便所へ一々通ふを難儀とし、机の下に甞て含喇薬の入って居た…