己の文学の最終目標をムージルは「合一」という言葉で表した。彼は生涯この境地を書き表すことを目指した。 小説『愛の完成』では、ある女の合一の境地への気づきと、そのための実践、そして合一への予感が描かれる。女は夫と愛し合い、互いに心の通じ合った満ち足りた生活をしているが、しかしそれも完全ではない。互いが即互いであるような、愛の究極の境地には達していないことに女は気づく。女は学校に通わせている娘の面談のため、遠く離れた土地へ出かける。女は駅構内、汽車内、馬車内で様々な考えと夢想をめぐらすが、ついにある決心をする。それは、夫婦二人の愛を完全なものにするために、行きずりの男に抱かれ、二人の愛を遠ざけると…