レオナルド・ダ・ヴィンチの『アンギアーリの戦い』と、ミケランジェロの『カッシーナの戦い』は、フィレンツェの同じ宮殿の同じ部屋に、同時に描かれるはずの壁画であったが、両者とも作品は残っておらず、多くの詳細がいまだ謎のままである。その謎の中で私が特に興味をひかれるのは、ミケランジェロがなぜ下絵を完成させたものの、本番の壁画を描かず、ローマ教皇の求めに応じてローマに去ってしまったかということである。 これにはふたつの説がある。ひとつは、これはふたりの対決だったのであり、ひとつはミケランジェロが下絵の段階で、レオナルドより自分のほうが上、すなわち「自分が勝った」と思ったので、もう壁画自体を描く必要はな…