はじめに 今日の進化論のパラダイムをなすのは、およそ90年前に成立した進化の「現代総合説」(Modern Synthesis)である。現代総合説ではラマルク流の主張である「獲得形質の遺伝」は強く否定された。その否定の仕方は尋常ではなく、獲得形質の遺伝だけでなく、「獲得形質」という言葉までもが禁句(タブー)とされ、論文や生物学の教科書などではいっさい使われない時代が続いた。そのようなタブーの裏には、生物学界史上最大のスキャンダルといわれた事件 [1] が、ちょうど同じ時期に起きたことが大きな要因だったと思われる。 ところが、今世紀になって生物学の革新的な研究分野であるエピジェネティクスの登場とと…