彼女(呂后)は戚(せき)夫人をつかまえて、その両手両足を斬りおとした。 その美しい眼をとり去った。 耳をつんぼにさせ、薬で口もきけなくした。 それを厠(かわや)の中に置いて、「人彘(ひとぶた)」と名をつけた。 「中国三大悪女」として唐代の武則天(則天武后)、清代の西太后と共に名前が挙げられる呂后(りょこう) *1 の、歴史に残る残虐な「人彘(ひとぶた)事件」のお話です。 司馬遷 武田泰淳 呂后(りょこう)は偉大なる殺人者である。殺人の智慧ゆたかに、殺人精神に徹している。 高祖が死んで孝恵帝が即位すると、世界の中心は彼女の手にうつった。 彼女は、自分の憎いと思う人間を、殺しつくす決心をかためてい…