はじめに 戦争の残酷さと人間性の深淵。この二つのテーマが交錯する稀有な作品が、大岡昇平の『俘虜記』です。1948年に創元社から刊行されたこの作品は、単なる戦争体験記ではありません。それは、極限状況下における人間の本質を鋭く描き出した、現代にも通じる人間観察の記録なのです。 『俘虜記』は、米軍収容所で日本人俘虜たちのエゴティズムを凝視した作家の手記として知られています。しかし、その本質は人間の生き様そのものへの洞察にあります。大岡昇平は、自身の体験を通じて、戦争という非日常的な状況下で露わになる人間の本性を冷徹に、そして時に温かく描き出しています。 この記事では、『俘虜記』の内容を深く掘り下げな…