童話『やまなし』の第二章「十二月」は以下の文章で始まる。 蟹の子供らはもうよほど大きくなり,底の景色も夏から秋の間にすっかり変りました。 白い柔かな円石もころがつて来,小さな錐(きり)の形の水晶の粒や,金雲母(きんうんも)のかけらもながれて来てとまりました。 (宮沢,1985)下線は引用者 この童話の舞台となった谷川に流れてくる「水晶」と「金雲母」とはどのようなものか。 「水晶」は原(1999)の『新宮澤賢治語彙辞典』によれば,石英のうち,結晶の外形の明確なもの,狭義にはさらに透明度の高いもので,特に花崗岩質の鉱脈に多いとある。 「金雲母」は黄褐色や赤褐色で真珠光沢がある六角板状の結晶で黒雲母…