童話『やまなし』(1923.4.8)が賢治の悲恋体験に基づくものであることについてはすでに報告した(石井,2021,2022)。本稿では,『やまなし』の舞台となった谷川のモデルが実在するかどうか検証する。 童話『やまなし』の舞台は,冒頭に「小さな谷川の底を写した二枚の青い幻燈です」とあるように,小さな谷川あるいは渓谷である。では,この谷川(渓谷)のモデルとなった川は存在するのであろうか。このモデルとなった谷川を推定するヒントになるものとして,『やまなし』に登場する「イサド」という地名がある。 蟹の子供らは,あんまり月が明るく水がきれいなので睡ねむらないで外に出て,しばらくだまって泡をはいて天上…