別件で東京美術学校長正木直彦の『十三松堂日記第1巻』(中央公論美術出版、昭和40年9月)を読んでいたら、自他共に認める藩札狂だった前田惇*1らしき人物を見つけた。何回も読んだ日記だが今頃気付いた。 (大正十三年) 六月二十五日 晴 出勤 楮幣蒐集家前田□□氏来訪 楷幣の我邦に在るものは堺の町人の間に通用せる私幣に始まるといひ藩札は元和年間のもの最古なり 徳川末葉にて諸藩藩札を濫発せし為にその数は五千余に及へりといひ支那のものは唐の会昌年間のものを最古とし宋より明のもの今尚多数に存在せりといへり 最近長崎にて昔の交易商の子孫より享保より文化文政天保弘化に至るまで和蘭陀船の船載せし更紗モールビロー…