戦前、吉野作造は、天皇を戴(いただ)く民主主義「民本主義」を唱えた。 《民本主義といふ文字は、日本語としては極めて新しい用例である。從來は民主主義といふ語を以て普通に唱へられて居つたようだ。時としては又民衆主義とか平民主義とか呼ばれたこともある。 然(しか)し民主主義といへば、社會民主黨などといふ場合に於けるが如く、『國家の主權は人民にあり』といふ學說と混同され易い。又平民主義といへば、平民と貴族とを對立せしめ、貴族を敵にして平民に味方するの意味に誤解せらるゝの恐れがる。獨(ひと)り民衆主義の文字丈(だ)けは、以上の如き缺點(けつてん)はないけれども、民衆を『重んずる』といふ意味があらわれない…