『堀部安兵衛』 海音寺潮五郎 鱒書房 剣豪新書 実家の姓の印が押されている古ーい本。父の蔵書だったものだ。 ワタクシの父は時代小説が好きだった。鱒書房、剣豪新書、なつかしい気がする。山手樹一郎が特に好きだった。「遠山の金さん」とか。講談本もたくさんあったのに、父の死後母なのか姉なのか、さっさと処分してしまった。かろうじていくつか持ち出した中の一冊がこれだ。 「場所は、日光街道草加の宿から江戸に寄ったところ。 時刻は、正午下り。 うららかな日である。 街道の左右には見えるかぎり、」 と始まる文章は声に出して読みたくなる語り口だ。情景がくっと迫ってくる。「海音寺潮五郎」というペンネームも、いかにも…