とても優れた映画学者/批評家の加藤幹郎は、その著書、『鏡の迷路』の中で「一本のフィルムをその画面の密度にしたがって記述すること」を試みた。そこでは、「映画史上もっとも密度の低い画面ともっとも密度の高い画面」を標定し、「すべてのフィルムがそこに収まりうるような両極の設定」が試みられている。 密度が低く希薄な映画空間の例として挙げられているのは、雪と氷の戦場、砂丘(白の空間)、夜、雨に濡れた舗道(黒の空間)などのトポスである。特にアントニオーニの『赤い砂漠』における「霧の波止場」を映したショットは、「映画的隠喩」ではなく「無」を表現しているとして、映画史上もっとも密度の低い画面とされている。 一方…