賢治は,作品にたくさんの擬音(オノマトペの一種)を入れることで知られている。童話『十力の金剛石』でも,天然物,動物,植物とさまざまな物に擬音が使われている。普通,物が動くとき音を発する。時計が時を刻むとき,実際そのように聞こえるかどうかは別として,リズムカルな機械音として「チクタクチクタク」とか「カチカチ」といった風に表現する。 しかし,賢治が用いる擬音は必ずしも音として聞き取れるものだけではない。例えば霧の降る音というのがある。 大臣の子もしきりにあたりを見ましたが,霧がそこら一杯に流れ,すぐ眼の前の木だけがぼんやりかすんで見える丈です。二人は困ってしまって腕を組んでたちました。 すると小さ…