しまじまやちぢにくだけてなつのうみ 元禄2年(1689)5月9日、芭蕉は、朝に塩竃神社に参詣したあと、船に乗って千賀の浦、籬島、都島を巡って、正午頃に松島に到着している。瑞巌寺を参詣したのち、雄島に渡り、八幡社、五大堂を見て、松島の宿に帰っている。そもそも『おくのほそ道』冒頭に「松島の月まづ心にかかりて」と述べており、まさにここは芭蕉が最も憧憬した景勝の地である。しかし、あまりの絶景に圧倒されて、発句を詠むどころではなかったようである。さすがの芭蕉もその景色をあらん限りの言葉で賛美したが、ついに「造化の天工、いづれの人か筆をふるひ、詞を尽くさむ」と諦めて、言葉を超えた物自体の奥深い神妙さに降参…