「主上《きみ》には、 ご受禅《じゅぜん》(み位をうける)の後は、 政務のひまにも、講書の勉《つと》め、 詩文の会など、ひたぶる御勉強のみと伺うが、 余りな御精励もおからだが案ぜらるる。 まれには、ちと、おすごしもよかろ」 法皇は、後醍醐の御酒量のほども知っておられる。 み手ずから酌してあげぬばかりなおすすめの仕方であった。 酒間には、 法皇のお覚えよき寿王とかいう冠者の“ 落蹲《らくそん》ノ舞”などあって、 女房たちの座も初春《はる》らしい灯に笑いさざめいた。 ——頃をみて。 「あまりお酔も深からぬうちに」 と、頭《とう》ノ蔵人《くらんど》冬方《ふゆかた》が、 みかどの前に、お笛筥を供える。 …