延喜の御時、大和歌知れる人を召して、むかしいまの人の歌奉らせたまひしに、承香殿の東なるところにて歌撰らせたまふ。夜の更くるまでとかいふほどに、仁寿殿のもとの桜の木に時鳥の鳴くを聞こしめして、四月六日の夜なりければ、めづらしがらせたまひて、召し出でてよませたまふに、奉る ことなつは いかがなきけむ ほととぎす こよひばかりは あらじとぞきく こと夏は いかが鳴きけむ 時鳥 今宵ばかりは あらじとぞ聞く 延喜の御代、大和歌を良く知る人を召して、昔の人、今の人の歌を奉れとの命を発し、承香殿の東にある場所で歌をお選ばせになった。夜が更けるころとなって、仁寿殿のところにある桜の木で時鳥が鳴くのをお聞きに…