「御念までもない。しかし御不安なれば、聞かずとも」 「いや、申さいでは天意にそむく。足利殿も天皇領の御住人。 ……そこはかとなく、待てる時節が来ているとは思しめさぬか」 「どういう時節が」 「これはまた、あっぱれな、おとぼけ顔ではある」 打ッちゃられたように、左近はツギ穂を失って、 どぎまぎしたが、その反動をこめて、また。 「由来、名門足利家の御血統が、北条氏より高く、 へたをすれば、北条家の門地を超ゆるものあるを恐れて、 わざとお家を不遇な地方におき、 それが代々御家運の衰微《すいび》となって、 今日にいたったことは、おん曹司として、 よもご存知なきはずはおざるまい」 「ぞんじておる」 「な…