彼のひとみは、そればかりでないものを見た。 ここには、彼以前に、もひとり人影がたたずんでいた。 いや、その者も木の根か何かにこしかけていたのらしいが、 すぐその辺まで来た高氏の影が ふいに崩れるような恰好でうずくまってしまったのを見ると、 それに驚いてか、つと起って、こっちを振向いていたものだった。 いちどは小鳥の起つような姿態《しな》をしめし、 すぐ逃げ去ろうとしたかのようであった。 ——が、思い直したふうで、ふた足三足、近づいて来た。 そして恐々《こわごわ》身をすこしかがめて訊ねた。 「もし。……どうかなすったのでございますか。 どこぞおかげんでもお悪いのですか」 「…………」 高氏には、…