1995年、今から27年前の本だった。長いこと、書庫に保管されていたのだろう。本を開くと、古い紙のにおいがした。いやな感じはしなかったから、わたしは思わず鼻を本に近づけて、においを嗅いだ。図書館で、稲葉真弓さんの本をいくつか借りてきた。一人の女性たちのひそやかな日常を淡々と描いているストーリーが多かった。柔らかな筆遣いのいたるところに、散りばめられている情緒。一語一語をかみしめながら、丁寧に読んでいく。ぜいたくなひとときだった。巨大な図書館の地下書庫で働く女性が、間違え電話をきっかけに二人の男性としばし魅惑的な交流をしていく「声の娼婦」。 (function(b,c,f,g,a,d,e){b.…