源氏が日を暮らし侘《わ》びているころ、 須磨の謫居《たっきょ》へ左大臣家の三位中将が訪ねて来た。 現在は参議になっていて、 名門の公子でりっぱな人物であるから 世間から信頼されていることも格別なのであるが、 その人自身は今の社会の空気が気に入らないで、 何かのおりごとに源氏が恋しくなるあまりに、 そのことで罰を受けても自分は悔やまないと決心して にわかに源氏と逢うために京を出て来たのである。 親しい友人であって、 しかも長く相見る時を得なかった二人は たまたま得た会合の最初にまず泣いた。 宰相は源氏の山荘が非常に唐風であることに気がついた。 絵のような風光の中に、 竹を編んだ垣《かき》がめぐら…