🪷月も入りぬ。 「雲の上も涙にくるる秋の月 いかですむらむ浅茅生の宿」 思し召しやりつつ、灯火をかかげ尽くして起きおはします。 右近の司の宿直奏の声聞こゆるは、丑になりぬるなるべし。 人目を思して、夜の御殿に入らせたまひても、 まどろませたまふことかたし。 朝に起きさせたまふとても、 「明くるも知らで」と思し出づるにも、 なほ朝政は怠らせたまひぬべかめり。 ものなども聞こし召さず、 朝餉のけしきばかり触れさせたまひて、 大床子の御膳などは、 いと遥かに思し召したれば、 陪膳にさぶらふ限りは、 心苦しき御気色を見たてまつり嘆く。 すべて、近うさぶらふ限りは、男女、 「いとわりなきわざかな」と言ひ…