源氏は御息所の来ていることなどは 少しも気がつかないのであるから、 振り返ってみるはずもない。 気の毒な御息所である。 前から評判のあったとおりに、 風流を尽くした物見車に たくさんの女の乗り込んでいる中には、 素知らぬ顔は作りながらも 源氏の好奇心を惹《ひ》くのもあった。 微笑《ほほえみ》を見せて行くあたりには 恋人たちの車があったことと思われる。 左大臣家の車は一目で知れて、 ここは源氏もきわめてまじめな顔をして通ったのである。 行列の中の源氏の従者がこの一団の車には敬意を表して通った。 侮辱されていることを またこれによっても御息所はいたましいほど感じた。 影をのみ みたらし川の つれな…