その日は、特別な予定はなかった。 父親に頼まれた買い物を済ませ、なんとなく帰る気になれず、僕は海沿いの広場で開催されている小さな野外フェスに立ち寄った。 夏の終わりの風が、湿った空気をゆっくり抱いて流れていく。ステージでは地元バンドが気怠いロックを鳴らし、会場の隅では高校生が冷えたラムネを飲みながら騒いでいた。 僕は人混みの後ろに立ちながら、特に期待もせずステージを眺めていた。 だが、それは突然だった。 前のバンドが終わり、転換の間に流れていたBGMがふっと消えた。 ざわめきが一瞬止まる。誰が出てくるのか、観客もよくわかっていない様子だった。 その静寂を破ったのは、ひとりの少女だった。 舞台袖…