賢治の童話『風野又三郎』(1924年2月12日以前の作)は,いきなり何の前触れもなく「九月一日 どっどどどどうど どどうど どどう」という風の音の擬音で始まる。この作品に登場する「又三郎」は,「ガラスのマント」と透きとおる「沓(くつ)」を履いて空を駆け巡る風を擬人化した「風の精」である。科学的な根拠に基づいて,風が我々人間や植物にどのような役割を果たしてきたか,あるいは気象現象である大気の「大循環」を使って旅したことついて,「風の精」の言葉を通して村の子どもたちに語る物語である。「大循環」とは,地球上では赤道付近と極地付近の気温差による大気の大循環をさす。植物は,ザクロ,マツ,イネ,ヤナギ,ガ…