1919年(大8)新潮社刊。前後2巻。これは本当に埋もれていた佳品だと思った。日本の近代文学に限って使用される「純文学」という概念のラベルを貼るか否かというのは問題にすべきではないと思う。情景描写も丁寧な筆致で、文芸作品としてよく出来ていて、読み応えがあった。 自分の親兄弟が、社会的な評価で下賤とされる職業、あるいは犯罪者であった事実をもって、本人たちまでもその烙印を背負って社会の表舞台に背を向けて生きなければならないという考え方は、狭量な「世間の目」という言葉とともに一般人の心の底に巣食っているものだ。シェークスピアの「オセロ」のイヤーゴのような陰湿で腹黒い人物も巧妙に描いている。また同じ姉…