「高い猫缶、好きなだけ食べていいから」 そう伝える私の目を、彼は真剣に見つめ返した。 昨年の、いよいよ酷暑が始まらんとする7月のある日のことだった。 あれから半年と少し。 彼が食べた高級猫缶は、200缶を優に超えた。 今日もまた、猫缶が供されるのを今か今かと待っている。 目が合ったらすかさず立ち上がって、前脚をこすり合わせて拝む。その態勢にいつでも入れるようにしていることが、モゾモゾと動く後ろ脚の気配でわかる。 いつもの朝が始まる。 「…誤診だったんじゃない?」 後から起きてきた夫が、皿に頭ごと突っ込んでワシャワシャと猫缶の中身をかき込む老猫を見つめてつぶやいた。 私もあれから、あの日のことを…